『あたしの右手を探してよ』
メールの受信音が鳴る。
私はいやな予感がしつつ、携帯電話の画面を見る。
まただ。この文面。今日何度目だろう。
うんざりして私はそのメールを消去する。
迷惑メールに登録しても、その1時間後には違うアドレスで送られてくる。
今日の朝、通学の地下鉄を待っているときに受け取ったのが一回目。
いたずらメールだと思ってすぐ消去した。
午前中の授業時に1回。お昼休みにまた1回。一体誰からだろうと思い、1度だけ返信してみたら、エラーになった。
午後からは、さらに頻繁にそのメールが届くようになった。1時間おき。更には30分おきに。
そのメールのせいで気分がふさぎ込み、帰宅してからはずっと自室に籠もっていた。
また、受信音。
もういいや。無視しよう。
受信音の後、室内には静寂が訪れる。
再び、受信音。
さっきのメールから5分と経っていない。
私の苛立ちをよそに、また、受信音。受信音。受信音。
「なによっ!」
ベッドの上に放り投げてあった携帯を鷲掴みにし、乱暴にその蓋を開ける。
画面には、ずらりとメールの件名が並んでいた。
『あたしの右手を探してよ』
『あたしの右手を探してよ』
『あたしの右手を探してよ』
『あたしの右手を探してよ』
『あたしの右手を探してよ』『あたしの右手を探してよ』『あたしの右手を探してよ』『あたしの右手を探してよ』
「うるさぁぁあいっ」
私は携帯の電源を切って部屋の壁に投げつけた。
携帯は電池カバーが外れただけで、ごろんと床に転がった。
そして、私はベッドに潜り込み、頭から毛布を被った。
私は果たして眠ったのだろうか?わからない。
わからないけれど、ぼんやりとした頭のまま、朝を迎えたらしく、気が付けば制服を着て通学用の鞄を肩から下げ、地下鉄のホームにいた。
携帯がメールの受信音を鳴らす。
ああ、携帯、持ってきちゃったんだ。いつの間にか、電源まで入れてしまって。
どうしよう。このメール。
見ようか。見ないか。
迷っている私の耳元に、声が聞こえた。
「探してって言ったのに」
ものすごい力で、背中が押された。
私の身体は宙を浮くようにホームから押し出され、線路内に落ちる。
そして、見つけた。
ホームの下に、乾涸らび始めた人間の右手が落ちているのを。
せっかく見つけたのに。
私の身体の上を鉄の車輪が走り抜けた。
END