昼下がりの公園。近所の子供たちが滑り台やら、ブランコやらに興じ、母親たちは輪っかになって、談笑している。
平日の昼間に、なんで私がこんな所にいるか。
それは、1週間前に会社をクビになって暇だからだ。そして、暇な私は、バツイチの姉がデートの間、甥の面倒を任されているからだ。
甥は、他の子供たちと一緒になって遊んでいられるが、私は、話の合わない母親連中の会話には入っていけない。
な、もんで、一人でぼーっと、ベンチに座っているしかなかった。
5歳の甥は、元気な盛りで、どこに行くにも全速力で走る。ああ、転んだりしないでくれよ……。
私の心配をよそに、甥が突進していく先は、噴水のある人工池だった。
「直也!そっち、危ないよ!」
池に落ちでもしたら大変だ。私は立ち上がり、甥に駆け寄る。
「やあだ!いけ、みる、おいけ〜」
私に後ろから肩を掴まれ、甥は暴れる。
「わかったわかった。じゃあ、お姉ちゃんと一緒に見よう。ね?」
私は甥の手をしっかり繋いで、池の縁に近寄る。
今は、噴水の上がる時間ではないようで、水面は、穏やかだった。
甥と私は、池を覗き込んだ。別に鯉とかがいるわけでもない、至って普通の「水たまり」だ。
少し淀んだ水面に、私たちの顔が映る。
甥が、足下の小石を広い、池の中に投げ入れる。
ぽちゃん……。
私たちの顔がゆらゆら、揺れる。
甥は、けらりけらりと声を立てて笑った。
水面に映った自分たちが変形する様が、面白いらしい。
どうして、子供って、こう、なんでもないことでも笑えるんだろう。
甥は、その遊びが気に入ったらしく、再び、今度は少し大きめの石を広い、池に投げ入れる。
ぽしゃっ。きゃはははは。
ちっとも、面白くね〜よ。
投げ入れた石が大きかったせいなのか?水面の揺れは、先ほどより、長く続いている。
きゃはは、きゃはははは。
甥は笑い続ける。それにしたって、随分長い……あれ?
よく見ると、ゆらゆら揺れているのは、私の姿だけだった。
甥は、池ではなく、私を見て笑っている。
私は、おそるおそる、自分の顔に手を当ててみた。
間違いない。
揺れているのは、水面ではなく、私自身だった。