剣士と魔術師の帰郷・9章

 リーザとの茶菓子のひとときを終え、リュオネスは邸内の廊下を歩く。
 そろそろ、キャルスラエルは父親との面会が終わった頃だろうか。
 彼女に会って、かけてあげられる言葉があるのかと問われれば、返答に困る。けれども、顔を合わせることで、視線を交わすことで、それだけでも何か違うのではないか。
 領主の屋敷だというのに、廊下を行き交う人の姿はまばらである。このことからも、今、この領内が非常事態にあるのだということが感じられる。
「すいません、キャルスラエル、どこにいるか知りませんか」
 やっとすれ違った使用人風の女性に尋ねる。
「3階の西奥が領主様のお部屋で、その1階下がお嬢様のお部屋ですから、その辺りじゃないでしょうか」
と、その女性は物腰柔らかな口調で答えてくれた。
 リュオネスは女性に礼を言い、教えられたキャルスラエルの部屋の方向へ赴いた。
 屋敷の中程に、柱廊で囲まれた吹き抜けの広間があり、十数人の子供達が思い思いに遊んでいた。
 リュオネスが子供達を見ていると、
「難を逃れた住民がここに非難させてもらっているんですよ」
と声をかけられた。
 振り返ると、老齢の女性が微笑みをたたえながら子供達を眺めていた。無垢な子供の姿は、彼女の心の癒しなのであろう。
「あなたも、そうなんですか」
「ええ。でも、タダでお世話になるわけにはいきませんからね。大人は使用人見習いとして働かせてもらってますよ。まあ、私はもう歳も歳ですからね、子供たちの監護役しかできないですけど」
 そう言って老女は屈託なく笑った。
 広間で遊んでいる子供の1人が、「おばあちゃーん、服のボタンが取れちゃった」と呼ぶと、老女は曲りかけた腰を伸ばして子供たちの中に入っていった。
 平和な光景だ。屋敷の外が非常事態であるから尚更、こんな光景が微笑ましい。
 歩きだそうとしたリュオネスは、広間を挟んで向こう側の柱の影から、明るい髪の人物が現れるのを見つけた。
 キャルスラエルだ。向こうはまだこちらに気付いていないようだ。
 リュオネスがキャルスラエルに声をかけようと口を開くがそれより早く、先ほどの老女がキャルスラエルに挨拶をする。
 キャルスラエルは微笑んで、柱廊から広間に降りると、老女は慌てて膝を押さえながらキャルスラエルに歩み寄る。老女は膝が痛むのだろう。キャルスラエルは自らも老女に近づくとかがみ込んで老女の膝付近に手を掲げる。
 会話は不明瞭だが、穏やかに微笑む2人の表情から、キャルスラエルが老女の膝をいたわり、老女がそれに感謝している様子がうかがえる。
 誰かが誰かを慈しむ姿というのは、美しいものなのだとリュオネスは思った。
「にーちゃん、すげー見てる」
「ね」
 気が付くとリュオネスの足下に小さな男女がしゃがみ込んで、こちらをじぃっと見上げていた。
 女の子が男の子に、彼が知らない自分の知識を得意げに披露する。
「ママが言ってた、こういうの、『へんしつしゃ』って言うんだって」
「違うから!」
 子供の中途半端な知識というのは時に悲しい誤解を生む。
 そんなやりとりが聞こえてこちらに気付いたのか、キャルスラエルが顔をあげる。
 にっこり微笑むキャルスラエルに軽く手をあげて応えるリュオネス。足下に、女の子が
「ねーへんしつしゃじゃないの?へんしつしゃと違うの?」とまとわりついてくるのを、
「ち、が、う。それと、そういう事は外で簡単に言っちゃダメ」
と諭してから、キャルスラエルに歩みよる。
「えーと、その」
 しかし、なんと言葉をかけて良いかわからなかった。だから。
「元気だったか」
 これでは、久しぶりに会った友人への挨拶である。キャルスラエルとは久しぶりどころか、つい数時間前まで一緒にいたというのに。
 キャルスラエルはくすっと笑ってから、つとリュオネスに手を伸ばし、服の裾を軽く引っ張る。
「少し、外が見たくありませんか」
 それが笑顔の下の心細さの顕れのような気がした。
「うん、俺も、丁度外が見たかった。ここで一番、外が良く見えるところに案内してくれないか」

 少し涼しい乾いた風が微かにそよぎ頬を撫でる。キャルスラエルの部屋のバルコニーから見える町並みはまるで絵画のように現実感が無い。それはやはり、人の気配が無いからで。
 きっと、この街がこんな事態でなければ、この風も、空も雲も、気持ちの良いものであっただろうに。
「本当は、いろいろ考えなければならないのでしょうね」
 しばし沈黙しつつ2人並んで外を眺めていたが、キャルスラエルが静かに口を開いた。
「いろいろ?」
 キャルスラエルはゆっくり頷く。金色の髪がさらさらと、肩から滑り落ちた。
「シュズルダット帝国は、タランの街を眠らせる事によって、大きな魔法力があることを誇示したかったのだと思います。そうすることで、この国はシュズルダットに怯え、戦う気力を落とすだろうと。そのうえで、この国に攻め入るか和議により配下に置くか。それがわかっているから、今、タランの状況を国全土に知らせるわけにはいかないんです」
「そうなのかもな」
 国政についてまで言及するキャルスラエルは、リュオネスの知っている彼女じゃないみたいで、自分とキャルスラエルとの違いや、自分がいかにキャルスラエルを知らなかったかを再確認させられた。自分がオーシェルメルの元にいて、キャルスラエルがメレンデの元にいたころは、距離なんて感じなかったのに。本当は、すごく遠かったのだろうか?
 リュオネスはキャルスラエルとの距離を確かめたくて、そっと彼女に手をのばした。
 その手が届く前に、キャルスラエルが口を開く。
「でも、私は……」
 キャルスラエルは顔を伏せ、まるで遠くに飛んで行ってはいけない感情を押し出すように、言葉を続けた。
「この国がどうなるかとか、そういう事を考えずに、ただ父を助けて欲しいと世界中に訴えたい。本当は。こんな事を考えてはいけないのに」
 伸ばした手が、キャルスラエルの肩に届いた。
「考えちゃダメだなんて、そんなことあるか」
 キャルスラエルがぱっと顔をあげる。
「キャルは確かに領主さんの娘で、立場とか責任とか、俺たちとはいろいろ違うかもしれないけどさ。違うのはそういう表面だけだろ。考えることや感じることは、同じだろ。だからあえて言うけどさ、俺だって、自分の家族が倒れたら同じ事思う。それが何か悪いことか?違うだろ。俺が考えて悪くないことが、キャルが考えて悪いわけがない」
 そこまで一気に言ってから、
「その、まあ……うまく言えないけどさ」
と付け足した。
 キャルスラエルはまた顔を伏せ、聞き取れるかどうかくらいの小さな声で「ありがとう」と呟いた。リュオネスが触れた肩が震え伏せたままの瞳からぱたぱたと雫が落ちる。噛み殺した嗚咽が唇から漏れる。
 きっとこうやってキャルスラエルは悲しかったり憤ったり、そういう感情も自分に禁じていたのかもしれない。
 こんな時、1人で立っているのはつらいだろうから。
 リュオネスは肩に触れていた手をそっとキャルスラエルの頭にまわし、自分の胸に引き寄せた。
 キャルスラエルが、自分に寄りかかって立っていられるように。

 陽が落ちてから、邸内がにわかに騒がしくなった。
 街の門から領主邸まで、列をなしてぞろぞろと騎馬兵が前進している。その様子を窓から視認したリュオネスは、何事かと玄関広間まで足を運び、そこで、兵たちを迎えるために立っていたディウロを見つけた。
「あ、ジジイ。じゃねぇディウロ。何があったんだ」
 さすがにタラン領主邸内で彼を「ジジイ」と呼ぶことに躊躇いを感じたのか、リュオネスはディウロの名を呼び直す。
「何がもなにも。ぬしが休んでいる間、わしらは会議を開き、シュズルダット帝国魔導団討伐隊を結成することを決めたのだ。そのため、領内各地から兵を呼び寄せただけのこと」
「会議?討伐?なんだよそれ。俺は知らされてないぞ」
「当たり前じゃ。ぬしは部外者だからの」
 騎兵が集まり始めた前庭に視線を戻し、ディウロが言う。
「部外者って、そういう言われ方は納得できないな」
 ディウロの隣に並び、反論する。
「討伐隊が結成されているなら、俺だってそれに参加したい」
「できん」
 あくまでリュオネスと目を合わせずに、ディウロは短い言葉で拒否する。リュオネスの話を聞く気はないという態度なのだろうか。
「今更俺が部外者だって言うのか」
「確かにぬしはそこそこ力はあるかも知れん。けど、所詮1人で剣を振るっていた人間だ。部隊としての訓練を受けていないぬしを受け入れることはできん」
 わかったか、とでも言うように、ディウロはじろりとリュオネスを見た。
「……なるほどな」
 不満そうな表情のまま、リュオネスはとりあえず納得した態度を見せた。
「わかったよ。俺は今回は居残りするよ。その代わりと言っちゃなんだけど、ひとつ頼みがある」
「なんじゃ」
「なんだかさ、ここって寒くないか?俺をここに残すなら、外套を貸して欲しいんだ」
 リュオネスは自分の両腕をさする。
 なんだそんな事か、とディウロは一旦固くした表情を和らげる。
「わかった。後で誰かに部屋まで持っていかせよう」
「ありがとな」
 それじゃあ、とリュオネスはくるりと後ろを向き、邸内に戻っていく。
 その後ろ姿を見送るディウロの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。
「あれ、今のリュオネス君では」
「おお、シガラー団長。あなたも来てくれましたか」
 振り返るとそこには、しっかりと武装したアルトロネスタの姿があった。
「彼も今回、一緒に行くの?」
 その問いに、ディウロは首を横に振る。
「いいや。あ奴は部隊での戦闘経験がない。本人は参加したいと言ったがの。今それを諭して返したところだ」
「へぇ」
 アルトロネスタは意外そうに目を開いた。
「よくおとなしく納得したね、あの子」
「………」
 
「ちょっと大きめか、これ」
 使用人見習いの街人が持ってきてくれた外套に袖を通し、リュオネスはぐるんぐるんと腕を回してみる。
「まぁいいや、ずっと着ているわけでもないし」
 外套の下はしっかりと軽鎧で武装し帯剣している。
 外は闇。まだ朝日は昇らない。
 討伐隊の出隊は陽が昇ってからと聞いている。今、兵の面々はそれぞれ鋭気を養うため睡眠をとっているはずだ。
 リュオネスは部屋の窓を開ける。涼しい風が吹き込み頬を撫でる。
 ひょいっと窓の桟に足をかけ、一気に窓枠を飛び越え外に身を躍らせる。
 すぐさま羽音が接近し低空飛行の竜、リーザの背に着地した。
 リーザはそのままぐんぐんと上昇しつつ領主邸から離れる。
 リュオネスの周りが濃い霧で覆われる。おそらくは雲の中なのであろう。
 上昇に伴い空気がどんどん冷えていく。

「そうですねぇ。魔導団は今、この街に魔法をかけ続けることに集中しているでしょうから、そこを突けば有利にならないとも限らないです」
 昼間、茶菓子を前にリーザと話し合った。
 タラン側の出方が意に沿わなかった場合、やはり自分は単身乗り込むことを選ぶだろうと。
 もしそうなったとしたら、シュズルダットの帝国魔導団相手に、何か勝てる手だてはないかと。
 リーザの情報によると、魔法は大がかりな魔法を用いる時、彼らが聖壁と呼ぶ崖の上に集まり魔力を発するのだという。魔法に集中しているところを、早朝、しかも空から奇襲となれば、いかに強力な魔導団とはいえ脆いだろう。さらに、魔法をかけ続けることを優先しているのだから、守備面も弱い。
「あ、でも、空は寒いですからね。それなりの装備は必要ですよ。私は平気なんですけど。ほら、鱗がありますから」

 確かに寒い。外套を借りていて良かった。
 リュオネスは襟の中に顔を鼻まで埋めた。そうしないと冷たい空気が肺まで入り込んで、体の中から冷えてしまう。
 リーザがゆるやかに下降を始める。
 いよいよ目的地が近い。
 雲を抜けると、小高い山が見えてきた。ぐんぐん地上に近づくと、その頂上は平らで、四方を高い崖に囲まれていた。そこに、ローブを着た集団が朝日に背を向け整然と並び一心に何事か念じている。皆の先頭に立ち石版に向かい宝石をはめ込んだ杖を振りかざしているのが団の長だろうか。
 これが、シュズルダットの帝国魔導団か。
 それにしたって、こんな崖に囲まれたところ、どうやって登ったんだろう。
 よく見れば、崖の下に4頭の竜とその横に武装した兵が1人ずつ付いている。
 なるほど、竜が崖との往復便であり、かつ、この場所を守っているのか。
 これでは早々に撤退しなければ危険だ。
 リュオネスは外套の前を開け剣の柄に手をかける。
 リーザが急降下する。
 魔法をかけ続けることに集中している魔法団の面々は竜の羽音に気付くのに遅れた。
 彼らのうち2、3人が異変に気付き顔をあげた時すでに、リュオネスは彼らの眼前に降り立ち剣を抜きつつ外套を脱ぎ払っていた。
「な……!」
 目を見開く魔導団長の首に素早く腕をかけ、
「動くな!」
と一喝する。
「魔法を……続けろ」
 リュオネスに捕らえられながらも、魔導団長は命じる。しかしその中の1人が、呪文を唱えつつ杖を振り上げる。
 が、魔法は発されることなく、その魔導師はリーザの爪の下に屈した。
「こいつが無けりゃ良いみたいだな」
 リュオネスは魔導団長の手から杖を奪い、その宝玉部分で石版を殴りつける。
 宝玉は粉々に飛び散ったが、石版にはひび一つ入らない。しかしそれだけでも効果はあるらしく、輝きながら落ちていく宝玉のかけらを見て、魔導団の間から落胆のどよめきが起こる。
 今度は剣の柄を石版に叩き込み、やっとそれは割れた。
 リュオネスが石版に意識をとられている隙に、前列にいた者が短剣を振りかざし襲いかかってきた。呪文詠唱に時間がかかれば不利と判断しての行動だろう。
 リュオネスは魔導団長を突き放すようにして解放し、即座に振り向き剣で短剣を受け止め弾く。
 突如、崖の下から竜の首がぬっと表れた。
 崖下に待機していた竜と兵が援護に来たのだ。
「リーザ、退却!」
 攻撃呪文を放とうとする魔導師を見つけてはそれを食い止めていたリーザが反応し顔をあげる。
 リュオネスとリーザは互いに向けて魔導団の中を突っ切る。リュオネスを捕らえようと伸びる手を剣で払い、リーザの背に飛び乗る。直後リーザは飛び上がるが、四方から兵を乗せた竜が迫る。
 リュオネスは山の下に樹海を見つけた。
「あの樹海上空まででいい、なんとか逃げてくれ」
 リーザは返事の代わりに一気に速度をあげた。
 1匹の竜がリーザの尻尾に噛みつきそうなほど、もう1匹がリーザの羽に触れそうなほど接近したところで、
「リーザ、落下しろ!」
と命じる。
 いかに竜といえども、落下速度ほど早くは飛べない。しかし、いかに竜といえども、いや、竜だからこそ、その重量で地上へ落下すれば、その衝撃は計り知れない。
 樹海に突っ込む直前に、リュオネスはリーザの首を叩く。瞬間、リーザは人の姿に戻る。
 リュオネスは人に戻ったリーザを抱きかかえたまま、葉の中に突っ込み、手頃な枝を掴んだ。枝はすぐに根本から折れたが、落下速度は大幅に緩和される。
 そのままいくつかの枝に掴まりながら落下し、最終的には無事に地面に着地する。
「ふぅ」
 リーザを地面に降ろし一息ついたところで、リュオネスの視界がだんだんと暗くなってきて、思わず地に膝をついた。
「あ、あれ?」
「大丈夫ですか。長時間の落下は、訓練をしていない人なら不調になるのも当然です」
「あ、そ、そうなんだ」
 リュオネスは視界に色彩が戻るまで数秒じっとしていたが、早々に立ち上がった。
「ここがいつまでも安全とは限らない。早く戻ろう」

 タランで結成された討伐隊は結局、聖壁に辿り着くことはなかった。付近上空をくまなく偵察する多数の竜の姿に、撤退を余儀なくされたのだ。
 しかし討伐隊がタランに戻った時、活気の戻った街の様子を見て、一目で魔法は解けたのだと理解した。
「どういう、事だと思いますぅ?」
 領主邸までの道を行きながら、アルトロネスタはディウロに訊いた。
「うむ……」
 どういう事か、なんて、2人にはだいたい想像がついていた。
「いや〜、あの子があっさり引っ込むはずだ。何か企んでいたんだねぇ」
 アルトロネスタは顎を上げて笑った。

 リュオネス達がタランに戻ったのは、山際で夕闇の橙と夜の藍が混じり合う頃。
 人々が目覚めたタランの空を竜が飛んでは騒ぎが起こると思い、少し離れた場所で人に戻ったリーザと共に、歩いてタランの入り口、空の門に向かう。
 門には兵が立っているかと思ったが。
 門柱の影から出てきたのはディウロだった。
「よ、ジジイ」
「何を気楽に言っておる」
 ディウロは表情を崩さなかった。しかしリュオネスは、門から街の中を見て、
「おお、家に灯りがついている!」
「やりましたわね、リュオネス」
と、リーザと2人、街の復活を喜んでいる。
「ぬしがやったんじゃな」
「まぁな」
「勝手な行動を」
「俺は正規の兵じゃないからね」
 ふふんと笑うリュオネスに、ディウロは深いため息をついた。
 リュオネスのおかげで街は戻り、しかも魔導団を襲撃したのがタラン軍ではなく謎の単騎だったとなれば、国交にも影響しないというおまけが付いた。
 しかし。
 単独で動かれては危なくて仕方がない。
 別にリュオネス1人の身がどうなろうが、タランにとっては、どうでも良いことである。
 だが。
「それが今後、国に不利益な結果にならないとも限らん」
「今回何か不利益な事でもあったかよ」
「今はない。だがわからん。じゃからの……」
 ディウロはリュオネスを見据え、言った。
「ぬしをタランの正規兵して、雇わせろ」
 正規の兵であれば、隊として、個人を守れる面もあろう。そんな思いも、ディウロにはあった。
「………本気か」
「嫌ならそれでいい。拒否権を与えぬまでだ」
 それは、『嫌ならそれでいい』という事にはならないのではないか。
「今より不自由になることもあるじゃろうが、今より自由になることもある」
 今回のこと然り。今後も、キャルスラエルを守ろうと思えば、タラン軍を出し抜かなければならない場面が出てくるかもしれない。それであれば、初めからタランの正規兵として存在していたほうがやりやすいだろう。
「そういうことなら、その話は受けてやろう」
「………雇われる身だというのに、随分上から物を言うな、ぬしは………。まあいい」
 ディウロはゆっくりと街に足を踏み入れ、リュオネスとリーザもそれに続いて歩く。
「街は元に戻った。じゃがの。これで収まるとは思えん。これからが、大変じゃぞ」  


  

前へ 次へ

剣士と魔術師の帰郷・目次へ
  Novel Indexへ

inserted by FC2 system