回送バス
学園前のバス路線って、たまに回送バス通るでしょ。
その回送バスのさあ、後ろの窓ガラス。
そこから、たまぁに、ウチの学校の制服着た女の子がこっちに向かって手ぇ振ってくるんだって。
え?見たこと無いって?
うんうん。あたしも。でもさ。
3年の先輩で、何人か見た人いるらしいよ〜。
で、その子にね、手を振り返しちゃいけないんだって。
だって、その子はねぇ………。
もう死んじゃってるんだって!
キャーーーーー!!!
どこにでもあるような、怪談話。
『次は、学園前、学園前ぇ〜。お降りの方は……』
バス車内に、アナウンスが流れる。
ほぼ満員状態のバスの中、つり革に掴まって立っていた私は、最後部の座席を占めて噂話をしてはきゃあきゃあ騒いでいる1年生女子の集団を「うるさいなぁ」という気持ちを込めて、冷たい視線で睨んでやった。でも、彼女たちは気づいていないみたい。
「なつかし〜。あたしらも1年の時、あの噂流行ったよね」
私の隣で、同じくつり革に掴まって立っている同じクラスの美樹が、微笑ましそうに1年集団を見ている。
心の広いヤツだなぁ。
「やっぱ1年てガキだよね。そんな話信じてるのかって。馬鹿かっつの」
彼女たちのうるささに辟易した私は、ありったけの悪意を込めて言ってやる。でも、彼女たちにはぎりぎり届かない声の大きさで言うあたり、私もやっぱり小心者なのよね。
バスがゆっくりと停まる。
運転手がアナウンスを流す。
「あ、学園前。学園前ですぅ。」
降り口の扉が開き、制服姿の学生たちがはき出される。
もちろん、私たちも同様に。
「あっれ、おまえ、同じバスだったのか」
ぞろぞろと列をなして学校の門へ向かっていた私と美樹の背後から、男子の声が聞こえる。
聞き覚えのあるその声に、私と美樹は振り返った。
「はよ、雅也」
1年の時から、というより、中学1年の時からだから、中高合わせて5年間も同じクラス、さらに部活まで一緒の雅也に、私は朝の挨拶をする。
「いやぁ〜、全然気づかんかったわ。おまえらチビだから」
雅也は「おはよう」を返すわけでもなく、こんな事を言ってくる。
「雅やん今日1人なの」
美樹が訊いた。
「そうだよ、カオはどうした。おまえら2週間で別れたのかよ」
私も雅也に訊く。
カオこと香織は、雅也の彼女であり、私の部活、吹奏楽部の後輩の1年生だ。
カオが入部したての頃は、よく、私と雅也、そしてカオの3人で仲良く行動していたっけな。カオは甘えんぼで、私か雅也かにくっついていないとダメな子だった。
いつの間にやらカオと雅也がそこまで仲良くなったのかなんて知らないけどさ。
改まって、2人並んで私の前に立って、「つきあう事になりました」なんて報告された時には、ホントびっくりしたわ。
すると、後ろから、人混みをかき分けて近づいてくる女子の姿が見えた。
「雅也先輩ひっどい!置いてかないでー!」
どうやら、雅也は1人で登校してきた訳じゃなく、降りるときに一時的にカオとはぐれてしまっただけらしい。
「だから手ぇつないでって言ったのに」
やっと雅也の隣に並んだカオは、雅也の制服の袖の端を掴んだ。
「あほぉ!俺は5分間以上他人と手をつなぐと体が溶けてしまう病なんだ」
と、訳のわからない事を言う雅也に、私は軽くローキックを入れる。
「照れんなよ。手ぐらいつないでやれ」
「菜穂先輩、ありがとうございますっ」
カオがにーーっこり笑って、雅也の手に、自分の手を絡ませる。雅也だって、それを拒むでもない。
「そう言えば、私昨日、クラスの友達からちょっと怖い話聞いたんですけど、先輩たちは、この話知ってます?」
カオがそう尋ねてきた。
「どんな話?」
私が訊くと、
「んー、なんか、回送バスに、女の子の幽霊が乗ってるって話」
カオがそう言うと、雅也も美樹も失笑した。
本当に、1年の間でまた流行っているんだなぁ、この話。
「見たヤツいるのかって」
雅也が言う。
「でもぉ、みんな言ってるし」
あ、カオめ。雅也だけに話す時、敬語使ってないのかよ。
その時、私の口からするりと言葉が出てきた。
「あー、でもさ、昔死んだ子はいたって話だよ」
「え〜〜〜っ」
カオが声をあげる。
本当に怖がっているのかな。それとも雅也の前だから、フェイクで怖がっているのかも。
「ホントホント。だからその子なんじゃないって私聞いた事ある。なんかね、手ぇ振り返してあげないと、怒ったその子に連れて行かれちゃうらしいよ」
「そうなんですか」
怖がっているような表情のカオ。あらら、本当に怖がっちゃってる?
「うっそ、それ、手ぇ振り返しちゃダメなんじゃなかったっけ」
美樹が言うけれど。
「違う違う。振り返すの。だからカオも、回送バス見かけたら、手ぇ振ってやんなよ。なんか、1年の頃が一番見やすいって言うから」
「え〜……」
びくびくしてるカオを見てると、私の中で、何かがすっきりした。
私ってちょっと性格悪いよなーー。
そして、放課後。
部活も終わって、みんなで部室である音楽室の掃除をする時間。
「悪い〜。バイト遅れそうだから、俺もう帰っていい?」
雅也が部活内の友人の男子にそう言っているのが聞こえた。
「あ、あと30分しかないよぉ。間に合う?」
雅也の声を聞きつけたカオが、雅也に言う。
「いいよいいよ。早く行きなよ」
雅也の友達は、雅也の持ってた洋ホウキを取り上げると、雅也は
「さんきゅぅっ」
と、脱兎のごとく部室を出て行く。
その後ろ姿を見送るだけの私のそばに、カオがちょこちょこと寄ってきて、
「菜穂せんぱーい、今日は久しぶりに一緒に帰りましょう」
と言ってきた。
バスの停留所には、誰もいない。
ほとんどの人が、1本先のバスで帰ってしまっているからだ。
私たちがどうしてそれに乗らなかったかというと、カオが教室に忘れ物をしたとか言い出したからだ。
置いていっても良かったんだけどさ。
必死な表情で、
「1人でバス待つのイヤです〜。だって、朝先輩から聞いた話思い出して怖くって」
なんて言われてしまうと、怖がらせてしまった張本人としては、責任てものがあるじゃない。
そんな訳で。
とっくに陽が落ち暗くなってしまった中、私はカオと一緒にバスを待っている。
この時間帯の時刻表はあって無きが如く。たぶん、街中で渋滞とかに巻き込まれているせいなんだろうけれど、時刻表通りにバスが来た試しがない。
なので、いつ来るともわからないバスを、停留所で待ち続けているしかない。
「あ、やっとバス来たみたいです」
1、2分おきにバスがやって来る方向を窺っていたカオが、明るい声を出した。
暗闇の中、バスの明かりがどんどん近づいてくる。
「結構待たされたなぁ」
そう言って私が腕時計を見ると、カオは本当に申し訳なさそうな表情で、
「私のせいで、すみません〜」
と謝った。
「いいよ、別に」
私はそう言ってあげて、改めて近づいてくるバスを見た。
「げ」
そして思わずそういう。
バスのフロントガラスの上の方にある、行き先掲示板に、『回送』の文字が見えたからだ。
「回送じゃんか!」
私は苛ついた声で言った。
苛立ちを隠しきれない私。そんな私の顔色を窺って怯えるカオ。
そんな私たち2人が立つ停留所に回送バスは近づいてきた。
ここで、このバスが停まって運転手さんが「特別に乗せてあげるよ」なんて言わないだろうか。言わないだろうな。
無情にも、バスは埃臭い空気を巻き上げながら、目の前を通り過ぎる。
私はそれを恨めしく見送る。
後部ガラスから漏れるバス内部の照明の光が、辺りをぼんやり照らしている。
「あ、れ……」
窓から見えるのは、きちんと並んだ後部座席の背もたれ。その内の一つから、ちょこんと半円形の影が見える。
影はゆらゆら揺れたかと思うと、にゅうっと上に伸びる。
「先輩……っ」
カオも、バスから目を逸らさずに、私に身を寄せてきた。
それは、人の影。
そう気付いた時、頭の芯が叩かれたみたいに感じた。
それは、女の子の影?
遠くなっていくバスの背部。影も小さくなっていくけれど。
「手、手ぇ振ってませんか、あれ」
カオの言うとおり、もう枝くらいにしか見えない女の子の手が、ワイパーみたいに左右に振られていた。
「あ、振らなきゃ、振らなきゃ駄目なんでしたよねっ。……ねっ」
「バ……」
バカ、やめなよ。
私がそう言って止める間もなく、カオはバスに向かって手を振っていた。
ぶんぶんと、空気を切る音が聞こえてきそうなくらい一生懸命に。
……私は。
私はもちろん、手を振らなかった。
だって、本当はあの噂話、手を振っちゃダメなんだから。
私はただ、懸命に手をふるカオを見つめた。
その後5分も待たずに、次のバスは来た。
私もカオも、バスの中を無言で過ごした。2人とも、頭の中は、さっきの女の子の影の事でいっぱいだったと思う。
でもさ。そんな、噂話通りの事、本当にあると思う?
昔からさぁ、トイレの花子さんだとか人面犬だとか3本足のマリーだとかさ、話ばっかで実際にあるわけないっての。
さっきのは、私達2人ともが見てるから見間違いって事はないだろうけれど、どうせその女の子はバスの運転手の知り合いとか家族とかで、特別に乗せて貰っていただけなんだよ、きっと。
それで、私達を友達かなんかかと間違えて、手を振ってきちゃったってところかな。そんなもんだよ、現実なんて。
だから、カオが手を振り返したところで、何か起こる筈もない。
カオにだけ手を振らせて、私が振らなかったって、カオを騙した事にも裏切った事にもなりっこない。
だいたい、カオも、私が手を振っていなかったって事には気付いていないみたいだしね。
考えるの、もうやめよう。こんなバカバカしい事考えるだけ時間の無駄。今月のお小遣いでどんな服買おうか考えている方がよっぽど有益だ。
私が鞄の中から雑誌を取り出した時、バスの運転手が、カオの降りる停留所のアナウンスを流した。
「じゃあ、先輩。お疲れ様でした。一緒に帰ってくれて、本当にありがとうございます」
カオが立ち上がって、私に挨拶をする。
「あ、うん、お疲れ」
私は雑誌から顔を上げて、挨拶を返す。
バスはゆっくりと停車し、カオは私と手を振り合ってから、バスを降りてゆく。
私は、カオに向かって振った自分の右手を見つめた。
さっきは振らなかった右手。
ごめん、カオ。
別にあの噂話をまるっきり信じている訳ではないけれど。
やっぱり、ウソを言ってしまった後ろめたさは、残った。
私は窓に目を移し、暗い道を街灯に照らされながら自宅に帰るカオの後ろ姿を見送った。
そして、翌朝。
いつもの通り通学の生徒で満員のバスで「学園前」停留所まで運ばれる。
バスの中で会った美樹と一緒に、学校までの道のりを、他の生徒と一緒に行列になって歩く。
「あぁ〜、雅やん、また1人ぃ〜。今日もはぐれたの?」
前方に、1人で歩く雅也を見つけ、美樹は小走りで雅也の後ろにくっつくと、その後頭部にチョップする。
「あてっ」
と、雅也が後頭部をさすりつつ振り返る。
「なんだ美樹か」
それから、美樹のちょっと後ろにいる私を見て、驚いた顔をする。
「菜穂?なんで美樹と菜穂だけなの」
と。
雅也の言葉の意味がわからず、私がきょとんとしていると、
「だって香織、昨日菜穂ん家泊まるから、今日は菜穂達と学校来るってメール来たぞ」
「えぇ?」
いつそんな話になったんだ。
私は思いっきり眉根にシワを寄せた。そんな私の様子を見て、雅也も何かおかしいと気付いたらしい。
「なんだよ、菜穂んトコじゃなかったのかよ」
「あ〜。こりゃ浮気のニオイがするにゃぁ〜〜」
美樹が楽しそうに言う。
「うるせ、ばーか」
美樹にそう言い返しながらも、焦った様子の雅也はポケットから携帯を取り出し、電話をかける。きっと相手はカオだろう。
数秒待って、相手が出たらしく、雅也はしゃべり出す。
「おい、香織?お前今ドコにいるんだよ」
雅也は怪訝そうな顔になり、その表情がどんどん強くなった。
「何言ってんだ?お前。それよりそこ、ドコなんだ……あ」
電話は途中で切れてしまったらしく、雅也は耳から離した携帯を苛立たしげな顔で睨む。
「何なに?後ろから、男の声でも聞こえたーあ?」
それでも雅也をからかう姿勢を崩さない美樹。
「そんなもん聞こえねぇよ。なんか、後ろから女の笑い声みたいなの聞こえた」
「何よ、それ。カオは何か言ってた?」
私が訊くと、雅也は
「わかんね。みんなで迎えに行くからね、とかなんとか言ってたけど、何の話してんだ」
と吐き捨てるように言って、携帯をポケットにしまった。
美樹は、両手で自分の頬を押さえ、
「きゃー、怖い。とうとう我が校にもクスリの魔の手が回ってきたのね」
とあくまでふざけるが、
「うるせぇよ、ホント。黙ってくれよ」
と、雅也に本気で怒られて、
「ゴメン」
と素直に謝った。
カオは、本当に今どこにいるのだろう。
昨日起こった出来事が出来事なだけに、気になってしまう。
そうだ、あの噂話、手を振り返すとどうなっちゃうんだっけ。
いや、今日カオがいない事と、昨日の女の子の影と、関係あるなんて思ってないよ。そんなのあるわけないんだもん。
でも、でもさ。ちょっとはひっかかるじゃない。
とうとうカオは、部活にも来なかった。
まさか、美樹の言うとおり、本当にクスリ……?
私は、アパートかどこかの一室で、カーテンを閉め切って薄暗い中、数人の男女に混じったカオがクスリをキめてる姿を思い浮かべてしまって、また自己嫌悪に陥る。
ごめん、カオ。あんたはそんな事する子じゃないよね。
もう、思考のほとんどが、カオの事でいっぱいになってしまっている。
部活を終え、みんなでバスを待っている時も、私ひとり、会話の中に入っていけなかった。
「ねぇねぇ、菜穂〜」
部活の友達に制服の袖を引っ張られ、私は我に返る。
「えっ、えっ?何」
友達は、私の鞄を指差しながら、
「いっつも付けてたストラップどうしたの〜?あれ、2日くらい探し回って買った、最強お気に、って言ってたよね」
と言う。
私が鞄を見ると、確かに、鞄の端に付けていた、お気に入りのストラップが無くなっている。
「あ、ホントだ……。どこかで落ちちゃったんだ。探して来る」
「もうバス来るよぉ」
走り出した私の背中に、友達の声が掛かるけど、私は立ち止まらなかった。
よく考えれば、お気に入りと言っても最近じゃ少し飽きてきていたし、ここで探しに戻らなければいけない事もなかったんじゃないかと思う。
でも、私はなぜか、そうしなきゃいけないような気がしたんだ。
結局、30分程探しても、ストラップは見つからなかった。
仕方なしに、私は帰る事にした。
バスの停留所に、今日は1人で立つ。
また、昨日みたいに回送バスが来たりして。
ふと私はそう考えてしまい、ぶるりと身震いした。
腕時計に目を向けると、昨日カオと回送バスを見た時より、20分も遅い。
いくらダイヤが乱れがちと言っても、20分も遅く回送バスが通る事はないだろう。そう思うと、幾分ほっとする。
それにしても心細いな。誰かに付き合ってもらえば良かった。
そもそも、何でストラップを探しに戻ってしまったんだろう。どこで落としたかもわからないのに、見つかるわけなかったじゃないか。
遠くから、ゴォーーー、という感じの音が聞こえる。
バスが近づいてきたんだと思った私は、音の聞こえる方へ顔を向ける。
まさか、回送バスじゃ、ないよね。
私は真っ先に、フロントガラスの上にある行き先掲示板を確認する。
『学園前経由〜駅前行』
そう表示してあるのが読み取れ、私はほっと胸をなで下ろす。
良かった。回送バスじゃない。それに、いつも私が下校に使っている路線のバスだ。
バスは、私の目の前で停まった。
プシュ、と音がして、乗り口のドアが開く。
バスのステップに足をかけようとして、私は、乗り口付近の窓から、誰かがこちらを見ているのに気付いた。
「カオ」
乗り口の前の座席に座って、カオが私に手を振っていた。
「何してんのよ、みんな心配してたんだよ」
安心したのと同時に怒りがこみ上げてきて、私は叱責する様な口調でそう言うと、バスのステップを駆け上がった。
カオはただ、私に向かってにっこりと笑った。
「笑ってる場合じゃないでしょ、あんたね」
私はカオの隣の席へ座ろうと移動する。他に乗客はいなくて、どの席に座っても良かったんだけれど、カオに今日の動向を問いつめるには、隣に座るしかない。
背後で乗り口ドアが閉まる音がした。
バスが発車し、私はよろけながらカオの座席の横に立つ。
もう一言二言、カオに何か言ってやろうと口を開くが、私の言葉をバスのアナウンスが遮る。
「え、皆様、毎度ご利用ありがとうございます。このバスは、学園前より、回送バスとさせて頂きます」
「え……」
私は凍り付いた。
思わず運転手の後ろ姿を見つめる私に、運転手はもう一度、私に確認させるようにアナウンスを流す。
「このバスは、学園前より、回送バスとさせて頂きます。只今より、回送バスとなります」
回送バス。今から?そんなバカな。
私は慌ててカオに視線を戻す。
「きゃっ」
にっこり笑ったカオの隣に、さっきまでいなかった女の子が座っていた。
私が悲鳴をあげても、カオは笑ったままだった。その女の子も一緒に。
私は救いを求めるように、車内をあちこち見回した。
他には誰も乗客がいなかった車内なのに。
座席のあちこちに、ぼんやりとした光の固まりが現れてはじわじわとその輪郭を濃くしていった。
それは、人の姿。けれど、ほんのりオレンジ色に発光して透けている。
いろんな年齢の人が、男も女もいたけれど、その中の数人が、体から血を流していたり、体の一部が無かったりしたから、すぐにわかった。
この人たちは、生きている人じゃない。
「降ろして……降ろしてよ!!」
喉が痛くなるくらい大声で叫んで私は、乗り口ドアに戻ろうとする。
けれど、丁度バスがカーブを曲がり、私はその場に転倒する。
これは、死者を乗せる回送バス。
「やだあぁぁぁ!」
叫んで、私はバスの中を一番後ろまで走る。倒れるみたいにして後部座席に後ろ向きに座り、窓ガラスを力一杯拳で叩いた。
行きたくない。行きたくないよ。こんなバスの辿りつく所になんて。
バスはどこかの停留所を通り越した。
泣き叫びながらガラスを叩く私に、停留所でバスを待っている女の子達が、恐怖に引きつった顔で手を振っていた。
END